March 09, 2009
顧問でなくなるとき・部員でなくなるとき
昼休みの終わりのことだった。すでに昼休みが終わる時刻になっていたので、まだ廊下にいる生徒に教室に戻るように声をかけながら学年棟をまわっていた。
美術室に３年生の女子が６人いた。そのうちの４人は吹奏楽部員だった。もちろん、３年生なのでもう引退はしているのだけど。
６人は美術室の教卓を囲むように集まっていたが、黒板には大きく落書きがしてあった。内容は他愛もないものだった。６人のうちの１人が、まだチョークを手にかいていた。
もう昼休みが終わっているので、教室に戻るように声をかけながら、「黒板の落書きを消して」と言った。ところが、誰も消そうとはしない。何回か言っても一向に消そうとはしないので、「落書きを消しなさい」と大きな声で強く言ってみたりもした。でも、相変わらずだった。
それどころか、吹奏楽部の４人は顔を見合わせてニヤニヤ笑っている始末だった。
そのうち、吹奏楽部員ではない１人が、私を振り切るように美術室を出て行ってしまった。残りの５人も美術室を出ようとしたが、私の「落書きを消しなさい」で足を止めた。でも、落書きを消そうとするわけではない。
「どうしてやろうか」と思っているうちに、美術室を出て行った１人が戻ってきて、黒板消しをつかむと乱暴に落書きを消し始めた。吹奏楽部員の１人が、それを手伝うように落書きを消した。
落書きが消えたところで、６人はそれぞれの教室へ戻っていった。
乱暴な消し跡が残った黒板をもう一度丁寧に拭きながら、
「終わってしまったのか……」
と思った。
吹奏楽部員ではない２人はまだしも、吹奏楽部員だった４人も、私の言葉をニヤニヤしながら無視し続けた。吹奏楽部員であれば、顧問が「落書きを消して」と言えば、すぐに「はい！」と返事をして消しただろう。実際、現役の部員たちはそのように行動する。
すでに引退したからだろうか、あの４人にとって、私はもはや顧問ではなく、「何かを言われてもニヤニヤ笑って済ませられる存在」になってしまったのだ。
彼女たちが、顧問と部員という関係を断ち切ってきた以上、私の方も彼女たちを吹奏楽部員として接することはできない。
私は、基本的に生徒を「○○さん」と「さん」付けで呼んでいる。しかし、吹奏楽部員だけは名前を呼び捨てにする。Ｈ中の吹奏楽部の顧問だったとき、部員から、名前を呼び捨てにするかニックネームで呼ぶように頼まれたのだ。それ以来、今でも吹奏楽部員だけは呼び捨てにしている。
でも、あの４人のことは、明日からは「さん」付けで呼ばなければならないのだろう。
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